取り組み方震災でがれきの下から人を助けたのは誰だったか
大きな地震で家がつぶれたとき、がれきの下から人を助け出すのは誰か。消防や自衛隊を思い浮かべる人が多いはずですが、阪神・淡路大震災(1995年)の記録は違う答えを示しています。この記事では、その記録と、町内会と重なることの多い「自主防災組織」、そして助けが要る人の名簿をめぐる個人情報の決まりを、国の資料と法律の条文から順に見ていきます。町内会に防災の役目を期待するかどうかを考えるとき、まず手元に置いておきたい事実です。
助け出したのは近くにいた人だった
内閣府(防災担当)のパンフレット「みんなでつくる地区防災計画」は、平成28年版の防災白書から次の数字を引いています。阪神・淡路大震災で救出された人のうち、消防・警察・自衛隊に助けられたのは約8,000人(22.9%)、近隣住民などに助けられたのは約27,000人(77.1%)でした。 同じパンフレットには、生き埋めや閉じ込めにあった人が誰に助けられたかの内訳も載っています。自力で脱出が34.9%、家族が31.9%、友人・隣人が28.1%、通行人が2.6%、救助隊が1.7%、その他が0.9%です。パンフレットはこれを「約7割弱が家族を含む『自助』、約3割が隣人等の『共助』」とまとめています。なお、元になった調査の原本(日本火災学会の報告書とされるもの)は、今回確認できませんでした。 数字が示すのは、大きな災害の直後には救助隊が全部の現場に行けないということです。倒れた家の前にいるのは、その家の家族と、隣近所の人です。隣の家に誰が住み、何人家族で、どの部屋で寝ているかを知っていれば、探す場所の見当がつきます。自主防災組織は法律に書かれている
ここで出てくるのが自主防災組織です。災害対策基本法(国の防災の基本になる法律)は第2条の2で、自主防災組織を「住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織」と定めています。隣保協同とは、隣近所で助け合うという意味です。同じ法律の第5条第2項は、市町村長に対し、自主防災組織の充実を図るよう努めることを求めています。つまり、国は住民の組織を防災の担い手の一つとして法律に位置づけ、市町村にその後押しを求めています。 令和6年版の消防白書によると、2024年4月1日時点で、全国1,741市区町村のうち1,697市区町村に167,233の自主防災組織があります。全世帯のうち自主防災組織の活動範囲に入っている世帯の割合(活動カバー率)は全国で85.4%、大阪府は90.7%です。 数字の上ではほとんどの地域が覆われていますが、中身は別の話です。総務省消防庁の「自主防災組織の手引」(2023年改訂)は、組織化の主な基盤は町内会だと書いています。そのうえで、消防庁が2016年度に行ったアンケートでは、多くの組織がリーダーなどの人材育成が進んでいないこと、防災活動の参加者が少ないこと、活動費や資機材の不足を課題に挙げています。手引は、町内会単位で結成された組織が多く比較的小規模なことも、その原因の一つとしています。 町内会をそのまま自主防災組織とするか、別に組織をつくるかについても、手引は両方の利点と弱点を挙げています。町内会が兼ねれば町内会の財源を使えますが、専門性を高めにくい。新しくつくれば専門性は高められますが、お金の確保が難しいことが多い、という整理です。助けが要る人の名簿と、本人の同意
災害のとき、自分で逃げることが難しい高齢者や障害のある人を避難行動要支援者と呼びます。内閣府によると、2013年の災害対策基本法の改正で、その名簿を作ることが市町村の義務になりました。さらに2021年の改正で、一人ひとりについて誰がどこへ避難を手伝うかを決める個別避難計画を作ることが、市町村の努力義務になりました。 名簿には氏名、生年月日、住所、電話番号、支援が必要な理由などが載ります。問題は、この名簿を誰に、いつ渡すかです。法律(第49条の11)は、ふだん(平時)は、消防、警察、民生委員、社会福祉協議会、自主防災組織などに名簿を渡すことにしています。ただし、市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、本人が同意しなければ渡せません。一方、災害が起きたときや起きるおそれがあるときは、命を守るために特に必要なら、本人の同意がなくても渡せます。名簿を受け取った人には、知った秘密を正当な理由なく漏らしてはならない義務がかかります(第49条の13)。 内閣府と消防庁が2026年6月に公表した調査(2026年4月1日時点)では、名簿は全市町村で作られています。平時から名簿を地域に渡している市町村は1,642団体(94.3%)ですが、名簿に載っている人のうち、平時から地域に情報が渡っている人は39.9%にとどまります。6割ほどの人の情報は、災害が起きるまで町内会や自主防災組織の手元にない計算です。個別避難計画も、作成率(計画がある人の割合)が2割以下の市町村が911団体(52.3%)と過半数を占めています。 同意の取り方は市町村によって違います。福岡市の資料は、返事のない人も同意したものとみなす「みなし同意方式」の例として神戸市・姫路市を、断る意思を示した人だけを外す「逆手上げ方式」の例として横浜市・千葉市を挙げています。どちらも渡せる人数は増えますが、同じ資料は、法律が本人の同意を基本にしている点から、みなし同意方式のほうが法の趣旨に沿うという見方を示しています。 ここには二つの言い分があります。名簿が早く地域に渡れば、ふだんから顔を合わせ、避難の手順を決めておけます。他方で、病気や障害のことを近所に知られたくない人もいますし、受け取った町内会の側も、個人情報を預かる重さと、助けに行けなかったときの責任を負うことになります。考えるための問い
- あなたの町内会や自主防災組織は、避難行動要支援者の名簿を市町村から受け取っていますか。受け取っているなら、誰がどこに保管し、どう使うことになっていますか。
- 隣近所で、夜中に大きな地震が起きたら真っ先に様子を見に行く家を、あなたは何軒思い浮かべられますか。
- 自分が支援を受ける側になったとき、名簿に載る情報を近所の誰に知っていてほしいか、知られたくないか。浜区の場合はどうか、考えてみてください。