現状神社の費用や祭りの寄付を町内会費で集めてよいか
町内会費の中に、地元の神社に納める氏子費や、秋祭りの費用が含まれている地域があります。長く続いてきた慣行で、気にとめない住民も多いはずです。けれども、ほかの宗教を信じる人にとっては、会費を払うたびに、信仰していない神社を支えることになります。2002年の佐賀地方裁判所の判決は、こうした集め方を違法と判断しました。一方で、神社と祭りを地域ぐるみで支えてきた歴史を重く見る声もあります。判決文、自治体の手引き、新聞報道をもとに、町内会と神社の費用の関係を考える材料を並べます。
佐賀地裁はどんな争いを裁いたのか
裁判になったのは、佐賀県のある市の「町区」(地域の自治会)です。1997年に、地方自治法にもとづく認可地縁団体(法人格を持つ町内会)になっていました。区費は1戸あたり月500円と年1,500円で、その中から毎年、地元の神社に「氏子社格割」を出していました。1995年度の予算では、氏子費が1戸150円、社格割(神社本庁が各神社にかける負担金)が3,000円で、合わせて6万1,500円です。祭りで神事をとり行う宮司への手当や、例祭の費用も区費から出ていました。 原告の二人は1991年に転入した住民で、どちらも浄土真宗の信者でした。1994年、神社関係の分を差し引いて区費を払いたいと申し入れます。区は当初、全額を払うよう求め、のちに次の総会まで区費を求めないと回答しましたが、やりとりはこじれ、二人を脱退したものとして扱いました。二人は法務局と弁護士会に人権救済を申し立て、弁護士会は区に勧告を出しています。区は1999年度から氏子社格割を「農家会計」に移し、農家でない世帯は負担しない形に改めました。二人は、区民としての地位の確認と、一人110万円の損害賠償を求めて訴えました。判決は何を違法としたのか
佐賀地裁は2002年4月12日、宗教関係の支出を一般会計と分けないまま区費を一括して集める方法は、その宗教を信じない人に、事実上、宗教上の行為への参加を強いるものだったとして、違法と判断しました。根拠に挙げたのは、信教の自由を定めた憲法20条の趣旨と、認可地縁団体について定めた地方自治法の規定(正当な理由なく加入を拒めない、不当な差別をしない)などです。二人が今も区民であることも認めました。 判決は、町内会が民間の任意団体であることを前提にしています。国や市町村と違って、私人どうしの関係に憲法がそのままあてはまるわけではありません。それでも違法としたのは、この区の性格によります。加入率は98%を超え、地区にほかの自治会はなく、入らなければ地域の共同活動やサービスから外れます。判決は、入るのも抜けるのも事実上かなり制限された「強制加入団体に準ずる団体」とみて、構成員がいろいろな信仰を持つことを前提に運営すべきだと述べました。 区側は、境内は住民にとって公園のようなもので、氏子費はその使用料だと主張しました。判決は、そういう面があることは認めました。そのうえで、区と氏子の集まりが組織も会計も分かれておらず、祭りを区が実質的に主催していたことから、神社を支えるための支出だったと判断しています。ただし、葬儀を手伝う婦人会への補助のように、名前に「仏教」がついていても住民の助け合いのための支出は、宗教関係費にあたらないとしました。 損害賠償の請求は退けられました。長年問題にされてこなかったので、指摘を受けるまで区が気づくのは難しかったこと、区が会計の移管などの改善に努めたこと、対立が長引いた原因の一端は原告側の激しい非難にもあったことを、判決は理由に挙げています。祭りを支える側の言い分
町内会が神社や祭りを支えてきたのには、それなりの事情があります。中日新聞が2023年に報じた愛知県の例では、自治会が毎年200万円を神社に出しており、会費年2万円のうち1万円が神社費にあたる計算でした。この自治会の会長は、常駐の宮司がおらず、神社が自分で資金を集めるのは難しいため、形を変えれば神社の運営が立ち行かなくなると心配しています。 福井市の「自治会ガイドブック」(令和8年版)も、地域の祭りには歴史的、文化的な価値があり、住民が祭りを通して地域の歴史を学び、親睦を深めていると書いています。同じ中日新聞の記事で、名古屋大学名誉教授の中田実氏(社会学)は、神社は地域の氏神として地域全体で支えられてきたので、信教の自由に反するというだけで否定するのは無理があると述べています。 行政がどこまで関わるかも、考え方が分かれます。北海道芽室町は2022年、神社への寄付が政教分離に反しうることを町内会に知らせてほしいという住民の要望に対し、町内会は任意団体なのでただちに政教分離に抵触しないとして佐賀地裁判決を挙げ、扱いは各町内会の判断に委ねると答えました。自治会側の工夫にはどんなものがあるか
自治体の手引きには、会費と神社の費用を分けるよう求めるものがあります。福井市のガイドブックは、神社の社費を自治会費に上乗せして集めている例があるとしたうえで、その支払いは任意であり、同時に集めるなら自治会費とそれ以外がはっきり分かるように示し、会員の了解を得るよう求めています。そして、宗教的な行事の部分を自治会から切り離しながら、祭りを続けていくよう勧めています。 中日新聞によると、愛知県のその市の自治会連合組織は1987年に、自治会と氏子を別の組織にする、神社の会計を独立させて自治会会計から出さない、自治会の組織で神社への寄付を集めない、という3点の見解をまとめ、手引書に載せてきました。京都市では、時代祭への自治会費からの支出をめぐる訴訟が2023年3月、自治会費からの支出をやめることで和解しています。中田氏は、氏子の組織を自治会とは別に作って会計を切り離すほか、自治会費を下げて神社への寄付を別に募る方法も挙げています。 赤い羽根などの募金を会費に上乗せする決議については、2007年の大阪高裁判決を別の記事で紹介しました。神社の費用の場合は、お金の行き先が宗教団体である神社なので、募金とは別に、信教の自由が論点になります。考えるための問い
- 自分の町内会の予算書に、神社や祭りへの支出はありますか。あるとすれば、それは神社そのものを支えるお金ですか、それとも境内の利用や行事の運営に使うお金ですか。
- 会費を分けたり、希望する人だけから集めたりしたとき、神社や祭りは続けられますか。続けられないとしたら、だれがどのように支えますか。
- ほかの信仰を持つ人や新しく越してきた人が、祭りへの参加や負担をどう感じているか、聞く機会はありますか。