歴史公民館と町内会の集会所 戦後の社会教育が残したもの
町内会の集会所を「〇〇公民館」と呼ぶ地域は少なくありません。けれども、市町村が条例で置く公民館と、町内会が建てて管理する「公民館」は、法律の上では別のものです。この違いは、選挙の前に候補者の話を聞く会に貸せるか、建物の中に祠を置いてよいか、物を売ってよいかといった判断に関わります。戦後の公民館の構想と、集落ごとの「公民館」の扱われ方を、当時の通知と法律の条文で確かめます。
1946年の文部次官通牒が描いた公民館
公民館は、1946年7月5日に文部次官が各地方長官(今の知事にあたる)にあてて出した通牒「公民館の設置運営について」から始まりました。当時の文部省公民教育課長、寺中作雄が進めた構想で、寺中は同じ年に『公民館の建設』という本も出しています。通牒と本をあわせた考え方は「寺中構想」と呼ばれます。 通牒に付いた要綱は、公民館を、町村の人が集まって話し合い、本を読み、暮らしや仕事の指導を受け、交流を深める場所と説明しています。図書館、公会堂、町村の集会所、産業の指導所などの働きを兼ね、青年団や婦人会の本部にもなる施設です。命令で建てるのでなく、住民が望んで設け、町村の力で維持するのが理想だとしています。 建物は新築が難しいので、校舎や公会堂、寺院など既存の建物を使うよう勧め、公民館は町村に1か所置くほか、できれば各部落(集落)にも建物を見つけて分館を設けることとされました。設置の進め方としては、まず部落(町内会)の常会(定例の寄り合い)で話題にして、住民の要望を高めることが挙げられています。町内会が1947年に解散を命じられる前の文書で、公民館づくりの入口に町内会の寄り合いが置かれていました(禁止と復活の経緯は別の記事にあります)。 運営は、町村民の選挙で選ぶ「公民館委員会」が中心になる案でした。費用は町村の予算と寄付を原則とし、産業団体などから補助を受けるときは、特定の団体が運営を思いどおりに動かさないよう注意を求めています。1949年の社会教育法と「分館」
1949年6月10日に公布された社会教育法は、公民館を法律で定めました。公民館を置けるのは市町村と、公民館を置くことを目的にした法人だけです(21条)。目的は、市町村など一定の区域の住民のために、暮らしに即した教育や文化の事業を行うことで(20条)、建物を住民の集会などに使ってもらうことも事業の一つに数えられています(22条)。 ところが、集落ごとの「公民館」をどう扱うかは、しばらくはっきりしませんでした。1954年、大分県からの照会に文部省の課長は、法律に分館を直接定めた規定はないが、附属施設として置くことはできると答えています。1955年の熊本県からの照会には、「〇〇分館」と呼ぶと下部組織という意識が強くなるので「〇〇部落公民館」と呼んで自主性を持たせたい、という地元の声が書かれています。町村には独立した公民館を持つだけのお金がない場合が多い、とも記しています。 1959年の法改正で、分館を設けられることが法律に明記されました(今の21条3項)。翌1960年2月の文部省社会教育局長の通達は、ここでいう分館を、条例などで市町村立公民館の分館と定め、市町村が維持管理するものとしました。部落や町内に設けられた施設は「公民館類似施設」として扱い、なるべく市町村立にするのが望ましいとしつつ、排除するのではなく、公民館が運営に協力するよう求めています。 公民館類似施設は、42条で「何人も」(だれでも)置けるとされた施設です。町内会が建てた建物は、「公民館」を名のっていても、市町村が条例で分館と定めていなければ、21条の公民館ではありません。文部科学省の社会教育調査は、公民館類似施設を数えるときにも集会所と自治公民館を除いています。数の移り変わりと今の集会所
香川大学の佐藤進氏の論文は、社会教育調査をもとに、公立公民館が最初の調査の35,343館から、1960年に20,190館、1968年に13,785館へ減ったと整理しています。論文は、町村合併で市町村の数が大きく減った時期と重なること、市町村の中で公民館の再編や統合が進んだことを挙げています。1960年の通達で分館の範囲が絞られたことがこの減り方にどれだけ関わったかは、今回確かめられませんでした。文部科学省によると、2021年度の調査では全国の公民館は類似施設を含めて13,798館です。 町内会の建物を市町村が支える仕組みは、今もあります。岐阜市は、市が認定した自治公民館を管理する自治会に、新築や修繕の費用を補助する要綱を設けています。大分県由布市の湯布院町では28の自治公民館が連絡協議会をつくっており、その広報には「西石松自治公民館(西石松地区集会所)」と、二つの呼び名が並んで載っています。町内会が認可地縁団体になる要件にも、集会施設の維持管理などの地域活動を目的とすることが含まれています(地方自治法260条の2第2項)。23条の制限は町内会の集会所にかかるか
社会教育法23条は、公民館がしてはならないことを定めています。もっぱら営利を目的に事業をして特定の営利事業を助けること(1項1号)と、特定の政党の利害に関する事業をしたり、選挙で特定の候補者を支持したりすること(1項2号)です。特定の宗教を支持することの禁止(2項)は、市町村が置く公民館だけが対象です。 文部科学省は、この条文を広い禁止と読まないよう求めています。2018年の事務連絡は、政党や政治家に公民館を使わせること自体を禁じるものではなく、特定の政党を有利または不利に扱うことを禁じる趣旨だとしました。営利についても2013年の通知と2023年の事務連絡で、講座の受講料や地元の農産物のマルシェなどを、行ってよい例として示しています。 町内会の集会所に23条がかかるかは、建物の位置づけで分かれます。市町村が条例で分館と定めた建物は公民館の一部なので、23条がかかります。類似施設については、42条2項が準用しているのは国や都道府県による指導と助言の39条だけで、23条は含まれていません。条文の上では、町内会が自分で建てた集会所に23条はそのままにはかかりません。 ただし、別の決まりがあります。認可地縁団体は、特定の政党のために利用してはならないと定められています(地方自治法260条の2第9項)。宗教については、2010年1月20日の最高裁大法廷判決(空知太神社事件)があります。北海道砂川市の市有地に連合町内会が建てた会館は集会所として使われていましたが、中に神社の祠があり、氏子の集まりが祭りを行っていました。最高裁は、市がこの土地を無償で使わせていたことを、憲法89条と20条1項後段に反すると判断しました。問われたのは市の土地の提供で、集会所の使い方そのものではありませんが、公の土地やお金が関わる集会所では宗教との関わり方が問われうることを示しています。考えるための問い
- 自分の町内会の集会所は、市町村の条例で公民館の分館とされていますか。それとも町内会が持つ建物ですか。浜区の場合はどうか、考えてみてください。
- 選挙の前に、特定の候補者や政党から集会所を借りたいと頼まれたら、何を基準に決めますか。どの候補者にも同じ条件で貸すという決まりはありますか。
- 1946年の通牒は、公民館の運営を住民の選挙で選ぶ委員会に任せる案でした。今の集会所の使い方は、だれがどう決めていますか。
出典
- 社会教育法(昭和24年法律第207号)(e-Gov法令検索)
- 地方自治法(昭和22年法律第67号)(e-Gov法令検索)
- 公民館に関する基礎資料(国立教育政策研究所社会教育実践研究センター・平成17年度)
- 福生市公民館30周年記念誌(福生市)
- 佐藤進「公民館及び公民館職員体制の推移に関する分析検討」(香川大学生涯学習教育研究センター研究報告第9号・2004年)
- 公民館の振興(文部科学省)
- 社会教育調査 用語の解説(文部科学省)
- 社会教育法第23条第1項の解釈の周知について(文部科学省・2018年)
- 社会教育法第23条第1項第1号の解釈について(文部科学省・2013年)
- 社会教育法第23条第1項第1号の解釈の周知について(文部科学省・2023年)
- 岐阜市自治公民館補助金交付要綱(岐阜市)
- 湯布院町自治公民館連絡協議会だより第2号(由布市・2025年)
- 塩見佳也「空知太神社政教分離違反最高裁判決」(法政研究78巻2号・九州大学・2011年)