現状町内会は選挙で候補者を推してよいのか 決まりと論点 10月25日 14:27 登録
市町村議会の選挙が近づくと、役員会で「地元から出る人を町内会として推薦しよう」という話が出たり、回覧板に後援会の案内がはさまれたりすることがあります。町内会は地域の多くの世帯が入っている組織なので、選挙のたびに頼りにされてきました。その一方で、会員の支持する政党や考え方は一人ひとり違います。町内会が選挙に関わるとき、どこまでが法律で禁じられ、どこからが会の話し合いにゆだねられているのかを知っておくと、役員会でこの話が出たときに落ち着いて判断できます。
町内会の推薦はどう続いてきたのか
地域政治の研究では、町内会の働きの一つに、選挙のときに候補者を選んで立て、後援する役割が挙げられてきました。新垣二郎さんの論文(自治総研、2017年)は、これを議員輩出機能と呼ぶ先行研究を紹介しています。同じ論文によると、昭和の大合併で町村議会の当選に必要な票が全国平均で100票前後から300〜500票前後に上がり、一つの町内会だけでは議員を送り出せなくなりました。そのため、いくつかの町内会が組んだり順番に出したりする形に変わった、という指摘があります。 この慣行は今も残っています。河村和徳さんの研究ノート(公共選択の研究、2008年)は、住民の中に地方議員を「地域のご用聞き」と見る人が少なくないこと、町内会推薦や部落推薦をはっきり掲げて立候補する人が少なくないこと、地区推薦の議員が引退すると住民も議員もまた自分の地区から代表を出そうとすることを挙げています。ただし、総務省のシンポジウムで上神貴佳さん(岡山大学)が示した資料(2016年)は、明るい選挙推進協会の調査をもとに「地元推薦の衰退」という見出しのグラフを載せており、推薦の力が弱まってきたこともうかがえます。法律が直接決めていること
まず、法人になった町内会(認可地縁団体)には、地方自治法260条の2第9項があり、特定の政党のために利用してはならないと定めています。条文が名指ししているのは「特定の政党」で、候補者個人を推すことまで含むかは条文からは読み取れません。法人になっていない町内会には、この項はかかりません。 お金については、町内会かどうかを問わず厳しい決まりがあります。政治資金規正法21条1項は、会社や労働組合などの団体が、政党と政治資金団体以外に政治活動の寄附をすることを禁じています。町内会も団体ですから、町内会費から候補者やその後援会に寄附することはできません。同条3項は、団体にそうした寄附を求めることも禁じています。逆向きの寄附も禁じられています。公職選挙法199条の2は、候補者や議員が選挙区内の人に寄附することを禁じており、東京都選挙管理委員会のチェックリストは、町会員の政治家が町会費を2口以上払うこと、行事に金一封を出すことを、禁じられる寄附の例に挙げています。実費として請求された旅行の会費を払うことは差し支えないとしています。 選挙の文書と回覧板の関係も決まっています。選挙運動ができるのは立候補の届出から投票日の前日までです(公職選挙法129条)。選挙運動用のビラは届け出たものに限られ、新聞折込みなど決められた方法でしか配れません(同法142条1項、6項)。藤枝市選挙管理委員会は、届出ビラを回覧板やポスティングで配ることは認められず、告示前に立候補予定者への支援を頼む文書を配ると、法律にない文書の配布や事前運動にあたるとしています。 役員の動き方にも制限があります。投票を頼むために一軒ずつ回る戸別訪問は誰にも禁じられており、候補者の名前を言って家々を回ることも同じ扱いです(同法138条)。投票を得る目的で選挙人に署名を集めることも禁じられています(同法138条の2)。後援会の入会名簿を回覧で集めることがこれにあたるかどうかを直接示した公的な資料は、今回は確認できませんでした。迷ったときは、地元の選挙管理委員会に問い合わせるのが確実です。自治体と選挙管理委員会の案内
東近江市、八王子市、上尾市の案内は、ほぼ同じ考え方を示しています。良好な地域社会の維持と形成に役立つ範囲であれば、自治会が特定の政治家を支援すること自体は禁止されていない。しかし、自治会は住民の理解と協力で成り立つので政治的な中立が基本であり、政治的な活動をするなら会の中で十分に話し合うべきだ、というものです。東近江市は、自治会の名で推薦すると、同意しない住民から異議が出て住民自治の問題になるおそれがあるとも書いています。 藤枝市はもう一歩具体的です。会員に政治活動への参加や寄附を強いること、町内会の会計と政治活動の会計を一緒にすること、市の文書と政治の文書を一緒に回覧すること、市から渡された回覧板で政治の文書を回すことを、避けるべき例として挙げています。推薦に前向きな側の言い分
推薦を支持する人は、地域の事情をよく知る人を議会に送ることに意味があり、地域の要望が議会に届きやすくなると考えます。河村さんの分析でも、町内会から立候補を勧められた市議は町内会を優先して考える傾向がありました。候補者を一から探して支える仕組みとして、町内会推薦が長く続いてきたことも、新垣さんの論文が紹介する研究からうかがえます。慎重な側の言い分
これに対して慎重な人は、会員の思想や信条の自由を挙げます。参考になるのが南九州税理士会事件の最高裁判決(1996年3月19日)です。判決は、実質的に脱退の自由がない強制加入の団体には、いろいろな考えの会員がいることが当然に予定されていると述べました。そのうえで、政治団体に寄附するかどうかは選挙での投票の自由と表裏をなし、会員一人ひとりが決めることだとして、寄附のために特別会費を集める総会決議を無効としました。 町内会は法律上は住民の自由な意志で作る任意の団体とされ、税理士会とは立場が違います。それでも、暮らしの上で抜けにくいと感じる人がいる町内会を、この判決の考え方にどこまで近いとみるかは、意見が分かれるところです。また、河村さんは、町内会から選ばれた議員は自治体全体より自分の地区の利益を優先しがちだという見方も示しています。前向きな側が利点とした点が、裏返せば市全体の課題が後回しになるおそれにもなります。考えるための問い
- 自分の町内会で候補者の推薦を決めるとしたら、誰がどんな手続きで決めるのがよいでしょうか。総会か役員会か、反対の会員の意見はどう扱うのか、考えてみてください。
- 回覧板や掲示板は、会員全員のためのものです。選挙や政治の文書をのせてよいかどうか、会として決まりを作っておく必要はあるでしょうか。
- 地域の代表を議会に送ることと、会員一人ひとりの投票の自由を守ることは、どうすれば両立できるでしょうか。浜区の場合はどうか、考えてみてください。
出典
- 地方自治法 第260条の2(e-Gov法令検索)
- 公職選挙法 第129条、第138条、第138条の2、第142条、第199条の2(e-Gov法令検索)
- 政治資金規正法 第21条(e-Gov法令検索)
- 政治家からの寄附禁止チェックリスト(東京都選挙管理委員会、練馬区ホームページ掲載)
- 明るく公正な選挙の執行に向けて(藤枝市選挙管理委員会・2024年)
- 自治会の選挙運動および政治活動(東近江市選挙管理委員会・2025年)
- 町会・自治会の選挙運動、政治活動について(八王子市・2025年)
- 自治会の選挙運動、政治活動について(上尾市・2023年)
- 最高裁判所第三小法廷 平成8年3月19日判決 平成4(オ)1796(裁判所)
- 新垣二郎「地域政治における町内会・自治会の機能(上)」(自治総研・2017年)
- 河村和徳「地方議会の定数を巡る一考察」(公共選択の研究・2008年)
- 上神貴佳「地方議会活性化シンポジウム2016 パネルディスカッション資料」(総務省・2016年)