歴史民生委員のルーツは済世顧問と方面委員、町内会との関わり 10月27日 14:22 登録
町内会の役員のほかに、地域には民生委員という人がいます。独り暮らしのお年寄りを訪ねたり、困りごとの相談に乗ったりする人です。町内会と同じように地域で動いていますが、仕組みはまったく別です。この記事では、民生委員制度がどこから始まったのか、町内会とどう関わってきたのか、今も二つが並んで地域に関わっているのはなぜかを、確かめられた資料の範囲で整理します。自分の町内会と民生委員の関係を考える材料にしてください。
岡山県の済世顧問と大阪府の方面委員
厚生労働省によると、民生委員制度は1917(大正6)年に岡山県で生まれた「済世顧問制度」が始まりです。岡山市の資料では、当時の岡山県知事の笠井信一が1917年5月12日に「済世顧問設置規程」を公布して創設したとされています。同じ資料に、藤井静一という人が最初の済世顧問の一人になり、民生委員第1号と呼ばれていることも書かれています。 翌1918(大正7)年には、大阪府で「方面委員制度」が発足しました。大阪府の説明によると、府知事の林市蔵が、理髪店で見かけた夕刊売りの母子の暮らしぶりを調べさせたことがきっかけです。同じような家庭がほかにもあると考えた知事は、社会事業の専門家の小河滋次郎博士の協力を得て、府内を地域ごとの「方面」に分け、それぞれに委員を置きました。この委員が、生活の状況を調べて救済にあたりました。 方面委員制度は広がり、厚生労働省の資料では、1928(昭和3)年に全国に普及したとされています。方面委員から民生委員へ
戦後の1946(昭和21)年、民生委員令の公布で、名称が現在の「民生委員」に改められました。名前は変わっても、地域ごとに委員を置いて住民の暮らしを見守るという骨組みは、大阪府の方面委員から続いています。厚生労働省の資料では、民生委員は児童委員を兼ねています。大阪府の説明では、民生委員・児童委員は全国で約22万人、大阪府内で約12,000人です。身分は「民間の奉仕者」と位置づけられています。 現在の根拠は民生委員法です。第1条は、民生委員が「社会奉仕の精神」で、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行うと定めています。2017(平成29)年には、制度創設100周年の記念大会が開かれました。戦前の方面委員と町会
では、町内会とはどう関わっていたのでしょうか。東京市の方面委員を調べた山田知子さんの2022年の論文があります。昭和10年(1935年)の資料をもとに来歴を調べたもので、地主や家主、自営業者が多く、町会の役員を務めた人や、青年団、在郷軍人会に入っていた人も多かったと報告しています。 同じ論文は、町会を基盤にしていたために、政府が戦時体制へ切り替えると、方面委員は政府の下部組織の一翼を担うようになった、と結論づけています。地域に顔の利く人が委員になれば、地域に根を張った活動ができます。その一方で、行政の末端に組み込まれやすくなる面もあったことになります。この論文が調べたのは東京市であり、ほかの地域も同じだったかどうかは、今回確かめられませんでした。民生委員の身分と町内会の違い
今の民生委員は、町内会の役員とは立場が違います。町内会の役員は、法律にもとづいて国から委嘱されるものではありません。北海道の説明では、民生委員・児童委員は市町村の推薦を受け、厚生労働大臣から委嘱された、非常勤の特別職の地方公務員です。民生委員法の第10条は、給与を支給しないこと、任期を3年とすることを定めています。 職務も法律で決まっています。第14条は、住民の生活状態を必要に応じて適切に把握しておくこと、生活の相談に応じて助言などの援助をすること、福祉サービスの利用に必要な情報を提供すること、福祉の活動をする人と連携して支えること、福祉事務所などの行政機関に協力することを挙げています。第15条は、個人の人格を尊重し、身上に関する秘密を守ることを求めています。第17条により、職務に関しては都道府県知事の指揮監督を受けます。第16条は、職務上の地位を政党や政治的な目的のために利用してはならないと定めています。民生委員は、住民の身の上に関わる相談を受ける立場なので、守るべき決まりが法律に書かれています。 町内会の役員の仕事は、その町内会の中で決まります。民生委員の職務は、法律が決めています。二つはこの点で性質が異なります。今も並んで関わる理由
それでも、二つはつながっています。横浜市の説明では、民生委員は、自治会町内会などを中心に構成される「地区推薦準備会」の推薦を受け、市の推薦会と社会福祉審議会を経て、厚生労働大臣から委嘱されます。準備会には、自治会町内会の代表者と、地区の民生委員児童委員協議会の代表者が加わります。 同じ市の説明では、2025(令和7)年の一斉改選から、候補者全員が現任者で、自治会町内会と協議会の代表者が再推薦に同意すれば、準備会の設置を省略できるようになりました。委員を選ぶ段階で、自治会町内会が今も大きな役割を持っていることがわかります。 つまり民生委員は、国の制度でありながら、委員になる人を地域の側が推薦する形で成り立っています。町内会は住民の暮らしを知っていて、民生委員は法律にもとづく相談と援助の役目を持ちます。この組み合わせが、並んで地域に関わる理由の一つだと考えられます。ただし、これは資料に書かれた仕組みから読み取れる範囲の見方で、資料がそう結論づけているわけではありません。 町内会への加入が減ると、この推薦の仕組みも影響を受けるかもしれません。厚生労働省の検討会で推薦の方法が議論されたことは確認できましたが、資料の本文を読み取れなかったため、ここでは内容に踏み込みません。考えるための問い
- 自分の町内会では、民生委員の推薦にどう関わっているでしょうか。町内会から推薦する人は、どう決めているでしょうか。
- 町内会の役員と民生委員の仕事は、重なっている部分と分けておくべき部分があります。自分の町内会ではどこで分けているでしょうか。
- 戦前の方面委員が町会を基盤に活動し、のちに政府の下部組織になった例から、地域の組織と行政の距離をどう保てばよいと考えますか。