現状退会の自由と寄付の一括徴収 二つの判決を読み解く 10月28日 14:22 登録
町内会や自治会をやめたいと言われたとき、会費は誰がどこまで払うのか。会費に寄付金を上乗せして集めてよいのか。この二つは、全国の町内会で何度も話題になってきました。裁判所の判断が出ている事件があり、読んでみると「やめるのは自由」という結論と、「やめにくい実態」への目配りが、別々の判決に出てきます。この記事では、最高裁の判決と大阪高裁の判決を一つずつ取り上げ、何が認められ、何が認められなかったのかを順に見ます。
最高裁の判決 退会はいつでもできる(2005年)
2005年4月26日、最高裁判所第三小法廷が判決を出しました。事件は、埼玉県新座市の県営住宅の入居者でつくる自治会のものです。入居者の一人が1998年10月に入居して自治会に入り、のちに退会を申し入れました。自治会は、未払いの共益費と自治会費をあわせて7万2000円ほど請求しました。規約では、共益費が1世帯月2700円、自治会費が月300円と決まっており、会員の退会を制限する定めはありませんでした。 最高裁は、この自治会が強制加入の団体ではなく、規約にも退会を制限する定めがないことから、会員はいつでも一方的な意思表示で退会できると判断しました。下級審は、退会は条理上許されないと考えていましたが、最高裁はその考えを誤りとしています。 では、お金はどうなったのでしょうか。退会を申し入れた時点までの自治会費(3か月分)は、払う義務が認められました。それ以後の自治会費は、払う義務がないとされました。一方、共益費は別でした。共益費は、共用部分の電気代や水道代、エレベーターの保守など、住んでいる間に使う施設の維持費です。入居者はそこに住む限り払うと約束したものと見られ、退会が有効かどうかとは関係なく、24か月分の6万4800円は払うことになりました。結局、自治会に払うよう命じられたのは6万5700円と遅延損害金です。 読むときの注意が二つあります。一つは、この事件が県営住宅の自治会だということです。地域の全世帯が加わる町内会と同じに扱えるかは、この判決だけでは分かりません。もう一つは、規約に退会を制限する定めがなかったことが前提になっている点です。規約に定めがあれば結論がどうなるのかは、この判決からは読み取れません。大阪高裁の判決 寄付を会費に上乗せした決議は無効(2007年)
もう一つは、2007年8月24日の大阪高等裁判所の判決です。滋賀県甲賀市の希望ヶ丘自治会の事件で、この自治会は地方自治法に基づく認可地縁団体(市町村長の認可を受けて法人格をもつ町内会・自治会)でした。区域内1060世帯のうち939世帯、約88.6パーセントが加入していました。 2006年3月、自治会は総会で、会費を年2000円値上げすると決めました。値上げ分は、地元小中学校の教育後援会、赤い羽根共同募金会、甲賀市社会福祉協議会、日本赤十字社などへの募金や寄付にすべて充てる予定でした。会員の一部が、寄付を会費として払わせるのは思想や良心の自由を侵すと訴え、決議の無効などを求めました。一審の大津地方裁判所(2006年11月27日)は、決議無効確認の訴えを退けています。 自治会の言い分は次のようなものでした。- 高齢化が進み、寄付を一軒ずつ集める役員の負担が重くなった。まとめて自治会から出すほうが合理的だ。
- 寄付先に政治的・宗教的な色合いはなく、地域や会員の福祉にかなう。
- 規約に従って十分に議論し、大多数の賛成で決めた。
判決をどう読むか 意見が分かれる点
この判決を、寄付の一括徴収そのものを禁じたものと読むか、この自治会のやり方が行き過ぎだったと読むか。ここで受け止め方が分かれます。全国社会福祉協議会は2007年9月の通知で、判決は一括徴収を違法としたものではなく、会員の任意の判断を尊重するよう求めたものだと説明し、自治会に協力を求めること自体に問題はないとしました。これに対し、論文を書いた大野拓哉氏は、この説明は社協側の関心だけに沿っていないかと疑問を出しています。 法律の組み立て方にも違いがあります。高裁は、自治会を私人どうしの団体と見て、民法90条の公序良俗で判断しました。しかし論文は、地方自治法が認可地縁団体に加入拒否や不当な差別的取り扱いを禁じていることなどから、町内会を純粋な私人とは見ずに憲法の人権規定を直接あてはめる考えもあると紹介しています。逆に、町内会を地方公共団体に準ずるものと見ると、団体内部の問題として裁判所が踏み込まない結果になりうる、という指摘もあります。 寄付の中身によって結論が変わることもあります。最高裁は、強制加入の団体である税理士会が政党などへ寄付するための特別会費を集める決議を、無効としました。一方、司法書士会が被災した他県の司法書士会を支援するために負担金を集める決議は、有効としています。この二つは町内会の事件ではありませんが、論文は、この二つの最高裁判決が団体の目的の範囲内かどうかに注目したのに対し、大阪高裁は決議の強制が社会的に許される限度を超えるかどうかに注目したと整理しています。考えるための問い
- 退会の自由が認められていても、ごみ集積所や災害時の助け合いが使えなくなるおそれがあるなら、実際には辞めにくくなります。自分の町内会では、会員でなくなった人にどんな扱いをしているでしょうか。
- 寄付を会費に含めるとき、会員が「応じない」と言える道が用意されているでしょうか。応じない人に、どんな不利益も生じない仕組みでしょうか。
- 役員の負担を減らす工夫と、会員一人ひとりの意思の尊重を、両立させる方法は何でしょうか。浜区の場合はどうか、考えてみてください。