取り組み方町内会の回覧と声かけは、特殊詐欺の被害をどこまで防げるのか 10月30日 17:05 登録
警察庁の発表によると、2025年(令和7年)の特殊詐欺は認知件数が27,832件、被害額が約1,423.1億円でした。前の年より件数は6,789件(32.3%)、被害額は704.3億円(98.0%)増えています。警察官を名乗る「ニセ警察詐欺」だけで11,014件、被害額は1,005.0億円にのぼります。手口は電話一本で始まり、被害に遭う人は家の中でひとりで電話を受けます。町内会の回覧や声かけは、その場面にどこまで届くのでしょうか。この記事は、町内会が詐欺や悪質商法の被害防止にどう使われているかを、確認できた資料の範囲で並べます。効果を測った資料は見つからなかったので、その点も書きます。
回覧板と掲示で、手口を知らせる
町内会の定番は、手口を知らせる文書を回すことです。札幌市東区の伏古本町連合町内会は、広報紙「ミニ情報」の令和8年4月号で特殊詐欺への注意を呼びかけています。親族や役所を名乗る電話やメールで現金やキャッシュカードをだまし取る手口が巧妙になっているとして、新年度で生活が変わる時期に気を引き締めるよう促し、不審に思ったら家族や警察に相談するよう案内しています(札幌市東区のページによる)。 兵庫県川西市の北陵自治会は、自治会のホームページに「注意喚起」の欄を置いています。2023年9月1日の投稿では、市役所職員や警察官などを装う予兆電話(本番の詐欺の前に、お金や家族の事情を探る電話)が市内の複数の地区で起きたことを知らせています。電気料金の未払いを理由に停止をほのめかす電話があった、という具体的な文面も別の投稿に載っています。ここで確認できたのはホームページへの掲載です。掲示板や回覧で回したかどうかは、そのページには書かれていませんでした。啓発活動と回覧板を組み合わせた例
三重県桑名市の大成地区自治会連合会は、2026年9月15日にスーパーの店頭で、買い物客に詐欺の手口を書いたチラシなどを配りました。桑名警察署と地区の防犯協会が加わり、13人が参加しています。店頭での活動は5年続いており、回覧板でも住民に注意を呼びかけていると、伊勢新聞は伝えています。 同じ記事は、この地区の2026年1月から9月14日までの詐欺被害が「ゼロ」だったと報じています。ただし、これは団体側の説明として書かれたもので、記事は独自に確かめてはいません。会長は「以前は被害が多かった」と話し、活動が被害防止につながればと述べています。回覧板や店頭の活動が被害ゼロの理由かどうかは、この記事からは分かりません。声かけと「気づき」を相談先につなぐ
消費者庁は、高齢者や障害のある人の消費者被害を防ぐ地域の力を「見守り力」と呼び、動画で「気付く、声かけ、確認、関係機関につなぐ」という流れを示しています。国民生活センターの「見守り新鮮情報」第521号(2025年9月18日)は、周囲の人が見る点を挙げています。家の中に不審な契約書や請求書、同じ商品の大量の在庫がないか、屋根や外壁に不審な工事の跡がないか、本人が不審な電話のやり取りをしていないか、といった点です。 周囲にできることとして、同じ号は「知らない電話には出ない」「その場で契約せず家族や周囲に相談する」といった対応を本人に伝えることを挙げています。相談先は、住んでいる自治体の消費生活センターなどで、消費者ホットライン188につながります。家族や地域包括支援センターの職員など、周囲の人からの相談も受け付けるとされています。 町内会の役員や班長が、こうした着眼点を知っていれば、回覧板を届けたときの玄関先の様子が手がかりになるかもしれません。ただし、中をのぞいたり問いただしたりすれば、見守りが監視に変わります。どこまでが声かけなのかは、地域で決めておく必要があります。役所の見守りネットワークと町内会
2014年6月の消費者安全法の改正で、高齢者や障害のある人などの消費者被害を防ぐため、自治体と地域の関係者が連携する「消費者安全確保地域協議会」(見守りネットワーク)を置けるようになりました。消費者庁によると、設置した自治体は2026年9月末日で597です。2023年3月31日時点の446から増えています。 法律の条文(第11条の3)を見ると、協議会を組織するのは消費者行政に関わる国や自治体の機関です。必要があれば、病院、教育機関、消費生活協力団体、消費生活協力員などを構成員に加えられると書かれています。確認できた範囲では、自治会や町内会の名前は条文に出てきません。町内会が構成員になっている自治体があるのか、あるとしてどんな役割なのかは、今回は確認できませんでした。情報を共有するときの守秘義務や個人情報の扱いも、条文の該当部分を確認できなかったので、書きません。名簿との関係は、別の記事「町内会の名簿と個人情報」で扱っています。 消費者庁の白書は、地域の見守り役が異変に気づいたら消費生活センターなどにつなぐ体制が、被害防止に有効だとしています。これは国の見方です。町内会の見守りが被害をどれだけ減らしたかを示す数字は、見つかりませんでした。確認できなかったこと
今回調べて、次の点は確認できませんでした。回覧板で注意を呼びかけた地域と、そうでない地域とで被害件数に差があるかを調べた資料。町内会の加入の有無と被害の多さの関係を示す統計。桑名市の「ゼロ」が活動によるものかどうか。 回覧には時間の問題もあります。班を回るのに数日かかる文書で、手口が変わるたびに知らせるのは難しいでしょう。電話が毎日のようにかかってくる相手に、月に一度の回覧が追いつくのかは、資料からは分かりません。考えるための問い
- 自分の町内会では、詐欺や悪質商法の知らせを、誰が、どんな形で、どれくらいの間隔で出していますか。受け取った人がその後どうするかまで、考えられていますか。
- 隣の高齢の住民の様子が気になったとき、役員は誰に、どこまで伝えればよいでしょうか。声かけと立ち入りの線は、どこに引けますか。
- 自治体の消費生活センターや見守りネットワークと、町内会がつながっている窓口はありますか。つながるとしたら、何を渡し、何は渡さないでおきますか。
出典
- 令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)(警察庁・2026年)
- 消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)総合情報サイト(消費者庁)
- 消費者白書 令和5年版 第2部第1章第6節(1)地方における体制整備(消費者庁・2023年)
- 消費者安全法 第11条の3(e-Gov法令検索)
- 見守り新鮮情報 第521号「見守り」と「気づき」で高齢者の被害を防ごう(国民生活センター・2025年)
- 伏古本町連合町内会「ミニ情報」令和8年4月号(札幌市東区・2026年)
- 北陵自治会「注意喚起」(北陵自治会ホームページ)
- 大成地区自治会連合会が特殊詐欺被害防止を呼びかけ(伊勢新聞・2026年9月16日)